小説

SS・薔薇園の主

 《白夜城》の一角、《血まみれ侯爵》が愛する薔薇園には、枯れることのない不思議な薔薇が咲くという。 その薔薇を手に入れた者は永遠の命を手に入れることが出来る。 故に侯爵は何百年もの間、変わらぬ容姿を保ち続けているのだ――「根拠のない与太話を…

SS・裏腹

「誰が吸血鬼か。余は単なる隠居爺である」 剪定鋏を巧みに操り、庭木を整えながら宣う《血まみれ侯爵》。 気位が高そうな風貌とは裏腹に、驚くほど気さくで社交的な彼の趣味は、来客に手料理を振る舞うこと。「庭の薔薇でジャムを作ってみたのだが」「ご相…

SS・からりと

一番街に最近出来た総菜屋の一番人気は「からあげ」。聞き慣れない料理名だが、店主曰く「下味をつけた鶏肉に衣をつけて、からりと揚げるから「からあげ」だよ!」とのことだ。「こっちの世界の人に『唐という国があって』とか言ってもわかんねえもんな」「諸…

SS・深夜の贅沢

 仕事に疲れた日は馴染みの樹上喫茶に寄って、お気に入りの紅茶とケーキを注文する。 夜だけ営業している、隠れ家のようなお店。星屑角灯の淡い光に満たされた店内は、まるで深海にいるようで。 最近導入したという珈琲サイフォンの、こぽこぽという沸騰音…

SS・グルナ大橋

 石橋の上に、そおっと片足を乗せる。 馬車も通るような大きな橋だ、人一人の体重でどうにかなるわけもない。頭では分かっているのだが、生まれ育った環境のせいで、『橋』という存在自体を信用しきれないでいる。「そんなに恐る恐る渡らなくても、この橋は…

SS・あなたのための一杯を ~喫茶『小夜啼鳥』

 書きたい文章がある。綴りたい物語がある。それなのに、いざペンを握った瞬間、何が書きたかったのか分からなくなってしまう。 気分転換でもしてきたら、と友人に紹介されたのは、噂の樹上喫茶店『小夜啼鳥』だった。 夕闇を背に縄梯子をよじ登れば、小さ…

SS・そらとぶゆめ

鳥になった夢を見た。潮風を翼に受けて、空と海の境界線をなぞるように飛ぶ。ああ、このままどこまでも行こう。煌めく波の向こう、海の彼方――誰も辿り着いたことのない世界の果てまでも。根拠のない自信を抱いて翼をはためかせれば、あざ笑うかのように波が…

SS・小夜啼鳥の囁き

 静かな夜だ、と呟く声がいやに響く。そのくらい静かな夜だった。「閑古鳥も鳴かない、と来たもんだ」「代わりに鴎が鳴いてるんだ、帳尻は合ってるってもんさ」 店主の皮肉めいた返答に、ふんと鼻を鳴らす。「常連客は大切にするもんだぞ」「何が常連だ。月…

街案内:一番街

 一番街は《世界樹の街》の中で最も広く、そして最も古い街。旅人が最初に足を踏み入れる街でもあることから、『始まりの街』とも呼ばれています。 《白羊門》と呼ばれる正門は陸路の玄関口。朝から晩まで旅行者や荷馬車が行き交っています。 街は正門広場…