小説

戴冠式

 彼女が選んだのは、純白のドレス。「私は国家と結婚するのだ。ならば白こそ、最も相応しい色だろう?」 雪深き北の小国。病に伏した父の後を継ぎ、天鵞絨の王座に就くことになった姫は、女官達を前に紅唇を引き上げる。「姫様の花嫁姿を見るのが夢だったと…

一輪の花

 北国の春は遅い。冬枯れの庭園からはようやく雪が消えたものの、水墨画のような淡い色合いのまま、ひっそりと息を潜めている。 とはいえ、庭師にとってはこれからが忙しい。施肥や剪定、害虫駆除から植え替えまで、花の季節を前に、やることが山積みだ。 …

氷雪の女王

 冷酷無比な《氷雪の女王》。その冷笑を目にした者は一様に凍りつき、ただ慈悲を願うしかない――。 そんな噂が流れるのも無理はない。即位したその日に大臣数人の首を挿げ替え、何百人もいた使用人を大量に解雇した。怜悧な美貌とは裏腹に、その魂は質実剛…

秘密の庭

 茨に守られた扉の向こう、光溢れる小さな庭で、今年も君は泥だらけになって笑う。 水溜まりに映るその眩い笑顔は、僕だけの宝物。「ねえ、かくれんぼしましょ」「ダメだよ、まだ剪定が終わってないんだから」「今日は私と遊ぶ約束でしょ」 二人だけの秘密…

Secret Garden

1 氷の城と白亜の姫 茨に守られた扉の向こう、光溢れる小さな庭で、今年も君は泥だらけになって笑う 二人だけの秘密の庭で、短い夏を謳歌するように―― 初めて連れて来られた王城は、真冬だったせいもあって、まるで御伽噺に出てくる『氷のお城』のよう…

SS・影踏み鬼

 休日の庭に、子供達の笑い声が響く。 遠方から訪ねてきた従兄弟達と、追いかけっこをしたり隠れん坊をしたり。普段は大人しい松来家の子供達も、こういう時ばかりは年相応にはしゃいでみせる。「旦那様」 一緒に遊んでいたお手伝いの文ふみが、困り顔で戻…

SS・白昼夢

 はらはらと舞い降りる薄紅色の花びらに、在りし日の思い出が重なる。 土手の桜並木が綺麗だからと、買い物帰りに寄り道をして。 春の嵐に髪を乱されながら、舞い踊る桜吹雪にはしゃぐ彼女。 川面を流れる花筏を見つめる横顔が随分と大人びていることに、…

SS・外套

 松来家の庭には立派な倉がある。 現在も正しく倉として使われているそこには、骨董品から季節用品までありとあらゆるものが収蔵されており、天気の良い日には虫干しなども行われている。「まあ、懐かしいものが出てきましたわ」 そう言って文ふみさんが引…

SS・夕涼み

 中庭に縁台を並べ、蚊取り線香を焚く。 大量に茹でた枝豆とトウモロコシは笊ざるのまま縁側に並べ、氷水を張った盥たらいにはビールとジュースをセットした。 台所の冷蔵庫では、大玉の西瓜が出番を待ち侘びている。 ようやく涼しくなってきた風が軒先の…