SS・落ち葉の季節
古めかしい通用門を潜り抜けると、軽やかな箒の音が聞こえてくる。「あら香澄さん。お帰りなさいませ」 艶やかな黒髪を翻して振り返る、着物姿の女性。彼女はここ『松和荘』のマドンナ的存在だ。「ただいま、文さん。精が出るねえ」 労いの言葉は、今年で…
SS 小説 松和荘へようこそ! 現代もの
芥不動産の道端さん
昭和レトロ、などという言葉がぴったりの、どこか懐かしい雰囲気を漂わせた商店街の片隅。 二十年ほど前に雑居ビルから建て変わった小規模マンションの一階部分にある『芥不動産』は、戦前からこの地に居を構える、老舗の不動産屋だ。 老舗とはいえ、社長…
小説 松和荘へようこそ! 現代もの
松落葉 ~松屋敷幽霊咄~
松の屋敷には 幽霊が出るという日毎夜毎に 泣き濡れて紡がれるのは 悔悟の念声なき声が こだまする松の屋敷で 誰を待つ?空からの部屋で 誰が待つ?「お兄ちゃん、幽霊屋敷って知ってる?」 唐突な問いかけに、侑斗ゆうとは思わず目を瞬かせた。「あ…
小説 松和荘へようこそ! 現代もの
「秋」 ~落葉の季節~
大通りから一本奥に入った閑静な住宅街に、その建物はあった。 板塀に囲まれた一角。屋根のついた立派な門扉には、これまた立派な松の木が彫り込まれている。 あえてそちらは使わず、少し離れたところにある古めかしい通用門を潜り抜ければ、聞こえてくる…
小説 松和荘へようこそ! 現代もの
「夏」 ~一〇一号室 桐崎侑斗の苦悩~
ジリジリと肌を焼く、強烈な太陽光。 夏が来るたびに、東京の夏は過酷だと思い知らされる。今日も真夏日、明日も真夏日。青空には絵に描いたような入道雲が浮かび、そこから見え隠れする太陽は必要以上にやる気満々だ。「焼ける……焼け死ぬ……」 剥き出…
小説 松和荘へようこそ! 現代もの
SS・迷路の街
迷う、迷う、迷う――。 これはもう、ボクが方向音痴だからとか、初めて来たからだとか、そんなレベルの話ではない。 噂に聞く《迷路の街》は、まさかの『一定時間ごとに区画がシャッフルされる』街だった。 やれ古代文明の遺産だとか、やれ異世界からも…
SS ファンタジー小説 垂れ耳エルフと世界樹の街 小説
SS・墓標
世界樹の根本には、かつて村があったという。 それは遠い遠い昔話。いまや集落の痕跡もなく、残っているのは苔むした墓石が幾つか。それだけだ。「名前も残されていないのですね」「墓が残ってるだけいいんじゃないか? 俺達には墓すらないからな」 から…
SS ファンタジー小説 垂れ耳エルフと世界樹の街 小説
SS・隙間 ~時空間の隙間~
幾つもの世界が門で繋がる街。その繋がり方は複雑で、しかもあやふやだ。 うっかり足を踏み外して時空間の隙間へ落ちれば、生きて元の世界に帰れる保証すらない。 だからこそ。「あんたや俺みたいに、自暴自棄になったヤツが、よく落ちてくるんだ」 隙間…
SS ファンタジー小説 垂れ耳エルフと世界樹の街 小説
SS・レシピ ~十二番街・ユージーン骨董店~
「こういうの作れる?」 珍しくリクエストされたのは、もう何百年も前に廃れた料理。渡されたレシピ本には材料と簡単な手順しか載っておらず、目分量で作ったらまるで違う料理になってしまった。「これはこれで美味しいよ」「いいや、何としても元の料理を再…
SS ファンタジー小説 垂れ耳エルフと世界樹の街 小説
SS・鍵 ~十二番街・ユージーン骨董店~
つい最近まで、その店には鍵すらかかっていなかった。 何故なら扉が歪みまくっていて、蹴り飛ばさないと開かなかったからだ。 盗まれて困る物もないし、とは店主の言い分だったが、それなら最近になって扉を直し、鍵を新調したのは―― 守りたい、大切な…
SS ファンタジー小説 垂れ耳エルフと世界樹の街 小説
SS・配達物:含み笑いの壺
その荷物は、群を抜いて怪しげだった。 見た目はごく普通の木箱だ。配送伝票には「骨董品(壺)」と書かれており、割れ物注意の札がベタベタと貼られている。 問題は――。 フフッ フフフ…… フフフフフフフ……「何なんですかこれー! ずーっと笑っ…
SS ファンタジー小説 垂れ耳エルフと世界樹の街 小説
SS・対戦の行方
かつて、『郵便チェス』なる遊戯が流行ったことがあったらしい。 対面で対局するのではなく、遠く離れた相手と、駒の動きを手紙で送りあって進めるという、実に気の長い遊戯だ。 どこかでその話を聞きつけたらしい友人が「是非やろう!」と言い出したのが…
SS ファンタジー小説 垂れ耳エルフと世界樹の街 小説