HIKARI - 2/4

 それは、人類が地球を滅ぼしかける、少し前のお話――。

 アンドロイドが一般社会に進出するための第一歩として造られた普及型試作機『LGT-H1』シリーズは、試験運用のため、無作為に選出された企業や家庭に配備されました。
 人と共に生活することで、様々なデータを蓄積・学習し、それを生かして次世代の汎用型アンドロイドを制作する予定でしたが、その計画は第三次世界大戦が始まったことで凍結され、試験運用中の『LGT-H1』シリーズはすべて回収されました。
 しかし、たった一台だけ、一般家庭に残っていたアンドロイドがいたのです。
 戦争で家族を失い、独りぼっちになってしまった少女を守るため、自己判断で回収命令を無視したアンドロイドは、次第に激しくなっていく戦火の中、ひたすらに少女を守り続けました。
 やがて勝者のない戦争が終わり、僅かに生き残った人々は、戦に蹂躙されて住むことのできなくなった地球を離れることを決めました。
 いくつもの宇宙船が空へと飛び立っていき、少女もどうにか最後の宇宙船に乗ることが出来ました。
 しかしその隣に、それまでずっと彼女を支え続けたアンドロイドの姿はありませんでした。
 何故なら、すでに管制装置が故障しかけており、誰かが地上で装置を動かさなければならなかったからです。
 少女は地上との通信が途絶えるその時まで、ずっとメッセージを送り続けました。
『あなたは、私の光。私達の、最後の希望。どうか待っていて。私達が帰る、その日まで』

 月日が流れ、地球に緑が戻った頃。
 調査用のロケットが降り立ったのは、緑に埋もれた都市の一角でした。
 廃墟となった都市のいたるところでは、たくさんのアンドロイド達が眠りについていました。
 地上に残ったアンドロイドは、最後の宇宙船を見送った後、倉庫に保存されていた『LGT-H1』シリーズを起動させ、地上の浄化を続けていたのです。
 ほとんどのアンドロイドが故障して動かなくなっていた中、唯一稼働していた一台は、故障した体を引きずるようにして調査団を出迎えると、壊れかけた声で話しかけてきました。
『オカエリ トモダチ』
「ただいま、ライト。約束を守ってくれて、ありがとう」
 調査団のリーダーは、あの時アンドロイドが最後まで守ろうとした、かつての少女でした。
 年老いた彼女を、変わらない笑顔で出迎えたアンドロイドは、その言葉を聞いて満足そうに微笑むと、彼女の胸の中で瞳を閉じました。

「……待って待って。その終わり方だと、アンタ壊れたみたいじゃん」
『メインカメラ コワレタダケ』

 やがて地球に再び人々が住み始めた頃、調査団のリーダーを務めた彼女は老衰でこの世を去り、彼女に引き取られていたアンドロイドは博物館へと収められました。
 開館したばかりの博物館で、歴史の証言者として注目を集めていたアンドロイドでしたが、時代の移り変わりとともに展示内容も目まぐるしく変化し、次々と新たな展示物が入ってきて、彼もまた陳列室の片隅へと追いやられてしまいました。
 今ではその存在を知る人も少なく、まして現在もなお稼働中であることを知る人はほとんどいません。
 アンドロイドは今日もまた、誰かが話しかけてくるのを待っているのです……。