近所に桜はないはずだから、きっと気まぐれな春風に乗ってやって来たのだろう。
出所が知りたくなって、懸命に花片を辿ってみたところ、町外れの丘まで来てしまった。
小高い丘の上には、朽ちかけた
まるでここだけ時間が止まっているような、そんな錯覚に陥るほどの、美しすぎる光景。
はらはらと舞う花片だけが、止まった時を彩っている。
スマホを取り出しかけて、すぐにやめた。
この美しさは、きっと映像には残せない。
せめて心に刻みつけようと、じっと目を凝らす。
桜は、まるで春を言祝ぐかのように、ひたすらに舞い続けていた。
しばらくして、丘の上に公園が整備されたことを知った。
社は取り壊され、桜の木だけが残されたそうだ。
時は流れる。世界は変わっていく。
それでも、変わらぬものが、きっとあるから。
だから来年もまた、桜を見に行こう。