[6]

 光が収まり、再び闇が戻ってくると、何とも微笑ましい光景が広がっていた。思わず目を丸くしたエスタスは、次の瞬間ぷっと吹き出す。
「おやまあ……」
 道端に転がるラウルと、その胸の上で光っている卵。跳ね出しそうなほどに上機嫌な卵を抱きしめるようにして上体を起こしたラウルは、やれやれと肩をすくめた。
「ちゃんと戻ってきたか」
――ピィ! ピィピィ、ピィイイ!――
 久しぶりに聞く鳴き声はまるで、今までのことを一生懸命に語っているようだ。賑やかな声に適当な相槌を打ちながら、見つめてくる三人組に向かって笑ってみせる。
「なんとか一件落着、かな」
「無事で何より」
「本当です。しかし、残念ですねえ。もっと向こうの世界のことを教えて欲しかったです」
「いっそ、一緒に連れて行ってもらえばよかったんじゃないのか?」
「ああ、その手がありましたか!」
 真顔で答えるカイトに、やれやれと苦笑いを浮かべるエスタス。アイシャは道端に座り込んだままのラウルの横にしゃがみこんで、卵をよしよしと撫でている。
――ぴぃぃ〜♪――
 甘えたように鳴く卵が小憎らしくて、思わず乳白色の殻を小突くラウル。
「あーあ、やっと子守から解放されたと思ったのにな」
――ピィピィッ!! ピピピッ!――
 抗議の鳴き声は、まるで子ども扱いされて駄々をこねる子どものようだ。
「お前がガーディくらいに礼儀正しくて常識的なら、俺も楽なんだがな」
――ピィィィィィ!!――
 耳を劈くような鳴き声に、冗談だよと卵を持ち上げれば、ほのかな暖かさが沁み込んで来る。
「お前、向こうの奴らに迷惑かけなかったか?」
――ピィッ! ピィピィッ――
 自信満々といわんばかりの返答に苦笑を浮かべ、柔らかく光る殻にこつんと額を当てる。
「急にいなくなったりすんなよ。せめて一言、断りくらい入れてけ」
――ぴぃっ――
 元気に一鳴きし、そしてまた忙しなく鳴き続ける卵を籠へと戻し、さてと振り返れば、すっかり元に戻った夜空にはまん丸な月が静かに輝いていた。
「じゃあ解散だな」
「ですね。俺達も宿に戻らないと」
「おやすみなさい、ラウルさん」
「ああ、おやすみ。良い夢を!」
 手を振る三人組に片手を上げて応え、ゆっくりと歩き出せば、清かな夜風が頬を撫でていく。

 頭上には輝く銀盤。落とす影は透き通る青。
 満月が照らし出す道は、ただ真っ直ぐに、彼らが暮らす小屋へと続いている。
 なだらかな傾斜に差し掛かったところで、ふと思い出したように立ち止まったラウルは、抱えた卵に向かって、どこか照れくさそうに呟いた。

「――おかえり」
――ピィッ!――

月下点・終
<<  >>