第2話「どこで」

 この町は、学園を中心に作られている。
 だから町のメインストリートはそのまま学園への通学路であり、朝夕に生徒達が行列を成す様はまるでどこぞのイベント会場のようだ。
 しかし、授業が始まれば町は閑散として、まるで使われていない映画のセットのようだ。メインストリートにも人影などというものはほとんどなく、目を瞑って歩いても誰かにぶつかる可能性は極めて低い。
 そんなゴーストタウンのような町を気ままにふらつくのが、少女のひそかな楽しみだった。とはいえ、彼女自身も学園に通う生徒の一人だから、それは年に数回あるかないかの、ごく稀なものだ。
 振替休日の月曜日。クラスメイトは降って沸いた休みを満喫しているだろうが、生憎と少女の家は自営業だ。店舗を兼ねた家に戻れば怒濤の開店準備が待っているが、昼までに戻れば文句は言われない。
 というわけで、店もまだ開いていない午前中、誰もいないメインストリートを裸足で飛び跳ね、鳩を蹴散らし、噴水の縁をぐるりと一周したりして、笑い声をあげる。大きな声で歌を歌っても、咎める人は誰もいない。
 まるで世界に自分一人だけになってしまったような、不思議な開放感。空は嫌味なほどに晴れ渡り、雲一つなくて、風すらも止まってしまったかのような、空白の時間。
「神様のくれた時間ね」
 誰にともなく呟いて、噴水の水飛沫を足で蹴り上げる。飛び散った滴でお気に入りのワンピースが濡れてしまったが、気にせず足を突っ込んで、ばしゃばしゃと跳ね散らかす。
 水浴びをしていた鳩達が驚いて、一斉に羽を打ち鳴らして飛び去って行く。その羽音に気を取られていたから、近づいてくる足音に気づくのが一瞬遅れた。

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