lost child

[人気のない場所]

 怒涛の如く過ぎていった人波にうっかり飲まれたのが運の尽き、もみくちゃにされながらも何とか喧騒の渦から脱出してみれば、そこはどことも知れぬ街角だった。
 見回せば、辺りは石造りの建物がずらりと並んでおり、その入り口はどれも固く閉ざされている。住人はみな祭に繰り出しているのか、驚くほどに人の気配がない。動いているものといえば何やら石畳をついばむ鳩と、地上の賑わいなどどこ吹く風、とばかりにゆったりと流れる頭上の雲くらいのものだ。
「ここ、どこだ?」
 呟く声が奇妙に大きく響く。それほどにそこは静まり返っていた。まるで、無人の街に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥って、ふるふると頭を振る。
(まいったな……)
 何しろ初めて来た街だ。現在地の見当などつくはずもないし、広場まで戻ろうにも、どう行ったらいいのか分からない。
 さっきはとにかく夢中で、人波から逃れることだけ考えていた。舞い散る花びらが視界を遮って、どこをどう走ったかも見えなかった。
「撒きすぎだろ、ありゃ……」
 あんなにもたくさんの花びらを、一体どうやって調達しているのやら。この祭が終わった頃には、周辺の花畑は丸坊主になっているのではあるまいか。
 そんな余計な心配をしていても仕方がない。何より、ここで突っ立っていてもどうしようもない。
 辺りを見回す。目の前に伸びる道は少し先で二手に分かれていた。
 まっすぐ進むか、右に曲がるか――。

まっすぐ進む 右の道に行く