<< >>
3

 エスタイン王国のある東大陸ケルナから定期船で二週間。船は中央大陸ガイリアに到着した。これからガイリア大陸を北岸に沿って北上し、ヴェルニー侯爵領にある港から北大陸アイシャスを目指す。
 その旅の途中、ライカとサミュエルは夫婦を装って旅をしていた。その方が何かと都合がいいし、説明も楽ですむのでそうしたのだが――
「なんだかまるで、本当の夫婦みたいだわ」
 酒場兼宿屋の二階で、飲んだくれて戻った挙句に寝台の手前で倒れこんでしまったライカをなんとか寝台に上げて寝かしつけたサミュエルは呟いた。
 その隣の寝台には、ルナが眠っている。
 ルナはサミュエルによくなついていた。下手をすればライカ以上に。
 エスタイン王国を旅立って、もう一月以上が経過していたが、その間にサミュエルはあることに気がついていた。ルナのことだ。
 ルナの髪は金。瞳は青。肌の色は白。
 サミュエルの髪は金。瞳は茶色。肌の色は白。
 ライカの髪は薄緑。瞳は青。肌の色は小麦色。
 つまり、サミュエルとライカを足して二で割ったらルナのようになるのではないか。
 そしてルナの顔立ち。目鼻立ちはライカにそっくりで、唇の形や眉の形はサミュエルそっくりなのだ。
 決定的なのが、ルナの左肩にある生まれつきらしい痣である。三日月のような形のそれは、実はライカの左肩にもある。ライカの母の家系にしばしば現れる痣なのだそうで、小さい頃ライカの母に見せてもらったことがある。
 もしかしてルナは、あたしとライカの子供?
 と、サミュエルは考えるようになった。しかし、産んでもいない子供がここにいるわけがない。ならばライカの子供かと勘繰ってしまうが、意外に真面目なところのあるライカが結婚もしないうちに子供を作ることはないだろう。
(……やっぱり、ライカに直接聞いた方がすっきりするんだけど……)
 それでも何となく聞けずに、旅は続いた。

<< >>