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8

「それにしても、どうやって時間を遡ったのかしら」
 ルナが未来に帰ってから三日。歪み騒ぎが一段落して、本来の知識の旅の目的に取り掛かれるようになった。
 写本を作るその休憩時間に、サミュエルは尋ねた。
「さあなあ。まず自分達の力なわけないんだから、魔術士に頼んだか、魔法大国時代の魔術がかかった物を手に入れてたか、どっちかだろ」
 まだ塔に残っていたライカが答える。
「それより、なんで過去に送ったかだよ」
「確かにね……。ま、いっか。どうせ未来になれば分かるんだもんね。……あれ? そう言えば、あんたが最初にあたしのところに来た時の肩の傷! あれは何だったのよ」
 ライカはすっかり治った肩を叩いて言った。
「ルナが現れた時、あの波紋みたいのがやっぱり現れてたんだけどさ。それに肩が触れたらスパッと切れたんだよ。それがあんまり切れ味よくて、最初気づかなくてよ。なんかおかしいなと思って見たら血に染まってるし、びっくりしたぜ、あん時は」
「なるほどね。よく出血多量で死ななかったわね」
 サミュエルはお茶を飲み干すと、意地の悪い笑みを浮かべてライカに向き直った。
「ところでライカ? あたしに何か言うことないの?」
「えっ……」
 ライカが言葉に詰まる。
「言うこと、ないんだ? ふぅーん」
 無駄とは思いつつ、感謝の言葉の一つくらい出てこないもんかしら、この男は、と内心呟くサミュエルの前で、彼は何やら決意を固めたようだった。
「分かったよ!」
 瞬時に顔を真っ赤に染めて、しかし今までにないほど真剣な顔で、ライカは言った。

「オレと結婚してくんねーか」

 今度は、サミュエルが顔を赤らめる番だった。

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