本の姫
幼い姫が幽閉されたのは城の書庫。 ただ一人、数多の書物に囲まれて育った姫は、今日も窓辺で吐息を漏らす。「ああ、つまらない」 すべては書物が教えてくれた。この世の成り立ちや沢山の動植物。異国の言葉や風習。 喜びや悲しみ、怒りや憎しみといった…
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小さな世界
春なので、奮発して本革の旅行鞄を新調した。 熟練の職人さんによる、世界に一つだけの逸品だ。 蓋を開ければ広がる、小さな世界。 布張りの青空には白い雲が浮かび、ビーズ刺繍の草原を風が渡る。 流れる小川は煌めいて、岸辺には色とりどりの花々が咲…
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スキットル
「これは掘り出し物だぞ」 鑑定を終えた店主が示したのは、少し不思議な形の水筒だった。 よく見る筒状のものではなく、平べったくて少し曲がっているそれが何なのか分からず、しかし状態が良かったので、あまり役には立たなさそうだと思いつつも拾ってきた…
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銀の実
遠方から嫁いできた娘は、手縫いの花嫁衣装を持参してきた。 純白に銀糸の縫い取りが美しい細身のドレスは、彼女の黒髪にとても映えるだろう。「生憎と、衣装ばかりで装身具の類はございませんが」 申し訳なさそうに微笑む、その横顔さえ美しい。 彼女の…
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七五三
七歳までは神の子だからと、母は目を腫らして呟く。 あまりに可愛かったから、神様がお連れになったのよ、と。 生まれつき体が弱く、三歳と五歳の節目を青息吐息で乗り越えて、やっと綺麗なおべべを着せてもらえるの、と張り切っていた、私の妹。 この日…
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トパァズ
猫の名前といえば、ミケだのトラだの、毛並みから取られることが多いようですが、そうした先例に則るならば「クロ」と呼ばれるべき私を、ご主人は「トパァズ」と名付けたのです。「お前の瞳は闇夜に光る宝石のようだ。故に私はお前をトパァズと呼ぼう」 そ…
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凱旋
勇者が魔王を討伐した――その一報がもたらされた瞬間、国中が歓喜に包まれた。 世界の果てにある魔王城を目指して旅立った若き勇者一行。彼らの旅路は想像以上に険しいものとなった。 幾度も裏切られ、仲間を失い――最後はただ一人、魔王城へと乗り込ん…
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モノ
「また大葉を残しましたね、博士」 皿の隅にちんまりとまとめられた大葉の千切りに、やれやれと肩をすくめてみせる。「苦手だと言っただろう。忘れたのかね」「いいえ、博士。ですがこのパスタにはバジルよりも大葉が合うのです。幼少期の好き嫌いを引きずら…
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figment
人間が想像できることは、人間が必ず実現できる――。そんな言葉を残した作家は、果たしてこんな未来を見据えていたのだろうか。 二十一世紀。異常気象と度重なる紛争で疲弊しきった人類は、とても緩やかとは言いがたい曲線を描いて数を減らしていき、文化…
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誕生日
私はそう、誕生日が嫌いだった。 三月――要するに学年末の生まれは、何かと不遇だ。 特に幼少期など、同じ学年の早生まれとは明らかに体格も違うし、発達具合だって半年以上の差がある。 一ヶ月の新生児と六ヶ月の乳児はまるで別物だと誰でも言うだろう…
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ひとめぼれ
目が合った。まさにそういうことだろう。 気づいた時にはぎゅっと胸に抱きしめて、レジへと向かっていた。 給料前の財布には些か厳しい出費だったが、気にしないふりをしよう。 お店で一番大きい袋でも入りきらない大きさだったから、そのまま抱きしめて…
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茨の聖女
1.茨の聖女 戦いは佳境を迎えていた。 《瘴気の森》から次々と湧いてくる瘴魔の群れをおびき寄せ、砦へと誘導する。言葉にするのは簡単だが、実行するのは中々に骨の折れる仕事だ。「一匹たりとも逃がすな! こちらへ引きつけるんだ!」 実体を持たぬ瘴…
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