ごちゃまぜ書庫

秋は夕暮れ

 秋は夕暮れがよい、と綴った作家がいるそうだが、それは電脳世界においても概ね同意できる。 CGであると分かっていても、VR世界《EDEN》の《YAMATO》サーバにおける秋は、これでもかと言わんばかりに郷愁を誘う。 爽やかな風に混じる乾いた…

誰もいない街

 誰もいない街の、誰もいない大通りを、生ぬるい潮風が通り抜けていく。 かつては小高い丘の上にあった道路も、今は間近に海が迫り、潮の匂いはきつくなる一方だ。 住む者のいなくなった建物は風化して骨組みが露わになり、乗り捨てられて錆びついた自動車…

取捨選択

 気づけば、いつだって間に合わせの人生だった。 とりあえず安いものを。とりあえず着られるものを。とりあえず使えればいい。 「とりあえず」で増えていった私物は、どれも思い入れなどないくせに、もったいない精神が邪魔をして処分できず。 気に入って…

gift ~Sage and disciple~

※こちらの作品は頒布時の横長デザインを残すべく、画像での公開となります※解説 twitter誤字シリーズ・第4弾はA6/横長のコピー本でした。 後書きページにもありますが、この時はなぜかツイート内で「各種ギフト」と打ったつもりが「gihut…

らす☆だん ~Last Dungeon~

1 薄暗い廊下に、四人分の足音だけが響く。 攻略を始めてから、どのくらい経っただろうか。『塔』上層階の窓はすべて厳重に塞がれており、外の光が差し込むことはない。おかげで時間経過が把握しづらく、頼りになるのは己の腹時計のみという、何ともしまら…

伸縮小説・「予言の姫」

100文字の予言『黄金の輝きを宿して生まれし末の姫は、やがて王国を破滅の先へと導くであろう』 いにしえの予言に従い、幼い姫が幽閉されたのは離宮の書庫。 ただ一人、数多の書物に囲まれて育った姫は、今日も窓辺で吐息を漏らす。400文字の嘆息『黄…

本の姫

 幼い姫が幽閉されたのは城の書庫。 ただ一人、数多の書物に囲まれて育った姫は、今日も窓辺で吐息を漏らす。「ああ、つまらない」 すべては書物が教えてくれた。この世の成り立ちや沢山の動植物。異国の言葉や風習。 喜びや悲しみ、怒りや憎しみといった…

小さな世界

 春なので、奮発して本革の旅行鞄を新調した。 熟練の職人さんによる、世界に一つだけの逸品だ。 蓋を開ければ広がる、小さな世界。 布張りの青空には白い雲が浮かび、ビーズ刺繍の草原を風が渡る。 流れる小川は煌めいて、岸辺には色とりどりの花々が咲…

スキットル

「これは掘り出し物だぞ」 鑑定を終えた店主が示したのは、少し不思議な形の水筒だった。 よく見る筒状のものではなく、平べったくて少し曲がっているそれが何なのか分からず、しかし状態が良かったので、あまり役には立たなさそうだと思いつつも拾ってきた…

銀の実

 遠方から嫁いできた娘は、手縫いの花嫁衣装を持参してきた。 純白に銀糸の縫い取りが美しい細身のドレスは、彼女の黒髪にとても映えるだろう。「生憎と、衣装ばかりで装身具の類はございませんが」 申し訳なさそうに微笑む、その横顔さえ美しい。 彼女の…

七五三

 七歳までは神の子だからと、母は目を腫らして呟く。 あまりに可愛かったから、神様がお連れになったのよ、と。 生まれつき体が弱く、三歳と五歳の節目を青息吐息で乗り越えて、やっと綺麗なおべべを着せてもらえるの、と張り切っていた、私の妹。 この日…

トパァズ

 猫の名前といえば、ミケだのトラだの、毛並みから取られることが多いようですが、そうした先例に則るならば「クロ」と呼ばれるべき私を、ご主人は「トパァズ」と名付けたのです。「お前の瞳は闇夜に光る宝石のようだ。故に私はお前をトパァズと呼ぼう」 そ…