ごちゃまぜ書庫

しろがねの少女と青い目の猫

novel:seeds / illustration:KaL カリカリ カリカリ 扉の外から聞こえてくる物音に、小さく溜息をつく。「……なによ。ここにはあなたのご飯なんてないわよ」 そうぼやきつつも扉を開けてやったのは、相手が思いのほか強情…

AIのカタチ

 かつて『機械が人間の生き甲斐を奪う』などと揶揄やゆされた時代もあったが、人手不足を補うために投入されたアンドロイド達は、今や人間社会に不可欠な存在となった。 古典SFに描かれたような『人工知能の叛乱』も今のところ起きておらず、彼ら/彼女ら…

青海波

 彼はあまりに人の良い漁師だった。 人が良すぎて、網にかかった人魚を見逃すどころか、怪我の手当をして飯まで食わせる始末。 呆れ果てた人魚は、恩を返すためと言い張って、押しかけるようにして彼に嫁いだ。  十日に一度、彼は隣村まで魚を売りに行き…

幻影燈

 怪しげな露天商から、『幻影燈』なるものを手に入れた。 なんでも、忘れてしまった景色を映し出してくれる、特別な一品だという。 手順書に従い、庭に天幕を張って夜を待つ。 日付が変わるその瞬間、内部のランプに火を点せば、青い光が天幕を埋め尽くし…

霜降り

 美しい切子のグラスを手に入れた。 切子と言うと青い硝子のものが有名だが、今回手に入れたのはほとんど透明に近い水色で、まるで氷をそのまま削り出したかのようだ。 羊歯シダのような不思議な模様は、窓霜から着想したものだという。 霜が降りた朝の、…

遥かなる故郷

 故郷の村を飛び出したのは、十五歳の誕生日を控えた春だった。 村の外は危険がいっぱいだとさんざん脅かされていたけれど、そんなものは怖くなかった。 必死に貯めた小遣いと好奇心だけをポケットに詰め込んで、広い世界に飛び出した。 あちこちの街を巡…

幽霊船を探して

「幽霊船を探してるんだ」 場末の酒場にはそぐわない、凜とした声。 まっすぐに見つめてくる瞳はルビーのように紅く、ギラギラと力強い輝きを放っている――ような気がした。なんせこっちは酔っ払いだ、多少の過剰表現は大目に見て欲しい。「貴方は腕利きの…

運命の天秤

 人生における幸運と不運の量は、実は釣り合っているのだと、何かで読んだことがある。 その法則が正しいのだとすれば、俺の人生はそろそろ終わるのだろう。 思えばここまでの道程は、あまりにも幸運に恵まれすぎていた。 本来なら厳重警備が敷かれている…

天使の羽根

 ふわふわ ふわふわ 硝子管に降り積もる 白い羽根 それはきっと 天使の落とし物 『天気管』――。 それはかつて西欧で使われていた天気予報の道具だったという。 硝子管に封入された水溶液が気温や気圧に応じて結晶化し、その様子で天気を予測したの…

バー『COSMOS』

 バー『COSMOS』へようこそ! オススメは星空のカクテル。流れ星はシュワッと弾けるラムネの味。 ノンアルコールなら星雲ティーはいかが? ティーカップの中で揺れる濃紺と紫の波。香りはもちろんラズベリー。 締めには太陽系フロート。一番人気は…

メルヒェンを探しに

 読みかけの文庫本を手に取った拍子に、挟んでいた栞代わりの葉書がはらり、と床に落ちた。 その辺にあったものを適当に挟んだだけだ。どうせダイレクトメールの類だろう、と思いつつ拾い上げれば、目に飛び込んできたのは「銀の三日月サーカス団」の文字。…

一つ星

 空を見上げる時、ここが異世界であることを実感する。 二十一世紀の日本から剣と魔法の世界へ、いわゆる『異世界転移』をしてしまったのが半年前。 習慣や常識の違いにもようやく慣れてきて、『迷宮攻略者』という職にもありつけた。武器や防具の使い方も…